12月、仙台市地下鉄仙台市地下鉄「国際センター」駅1階インフォメーションコーナーで開催された「乳幼児親子の外出行動からかんがえる施設のかたち」展を見学しました。
■3つの公共施設での乳幼児親子の行動を調査
東北工業大学建築学部建築学科の錦織研究室は、2022年から仙台、宮城を中心に未就学児童(0歳~5歳)が外出する様子を調査。今年度は、せんだいメディアテーク、青葉の風テラス(国際センター駅)、宮城県美術館の公共施設3カ所で、約20分親子で自由に散歩してもらい、どこをどう動いたかを調査。「子どもも大人も楽しく満足して過ごせる居場所とはどんな空間か」を分析し、動線を分かりやすく模型に落とし展示、さらに建築との関係を分析したもの。東北工業大学建築学部建築学科の錦織研究室の錦織真也(にしこり まや)先生に話を聞きました。
錦織先生は、愛媛県出身で、東北大学の理学部生物学科と工学部建築学科を卒業。せんだいメディアテークの建設時に建築家の伊東豊雄氏と出会い、東京藝術大学の修士課程を経て、伊東豊雄氏の設計事務所に入社。2010年に再び東北大学工学研究科の助手として仙台へ。東日本大震災後は校舎の復興に尽力。現在は、東北工業大学建築学部建築学科准教授として教育・研究に従事しながら、仙台市でご主人と建築事務所を主宰しています。
錦織真也先生も子育て中(写真:筆者)
■「いたい場所、行きたくなる場所」には理由がある
「せんだいメディアテークの場合、南側の定禅寺通に面したガラス張りの付近を好んで歩いている傾向があり、ガラス越しに車やバスが通る様子を指さして見ていたり、街を歩く人とアイコンタクトしたりして過ごすことが多くありました。託児所は窓がなく、もう少し太陽の光が入ったり外の眺めを楽しめたり、屋内でも外を感じられるといいと思います。また、モノの置き場所を変えるとより動きやすく、くつろげる居場所になるかと思います」
せんだいメディアテーク1階の親子の行動動線の模型
「青葉の風テラスの1階では、乳幼児は展望スペースやテラスで地下鉄を眺める姿が多く見られ、3歳児は外に出て、隣接する国際センターまでの間にある広い階段や芝生広場を走り回ったり、親がテラスの椅子で休みながら子どもを見る様子が見られました。1階に外を眺めながらいられる空間などを設け、1階と2階を連動して利用できる仕掛けなどがあると良さそうです」
地下鉄国際センター駅
「宮城県美術館は、親子で屋外の彫刻展示を一つひとつ見ながら楽しく歩いていました。吹抜けや高低差、奥行きのある空間など、子どもの探求心をくすぐる空間が多く、子どもが回遊する様子が見られました。建物の前に駐車場があるので、駐車場に安全な歩行空間があるとなお回遊しやすくなると思います」
宮城県美術館の親子の動きの模型
■子連れで公共施設はなぜ行きにくい?
西日本新聞の調査によると、乳幼児親子のお出かけ先の約75%が公園と外食(ファミリーレストランなど)とショッピングセンターだそう。
「本来なら、一般に開かれているはずの公共施設、文化施設が乳幼児のお出かけの受け皿になってくれるといいですが、美術館や図書館、博物館などは、基本的に静かにする場所で、実際騒ぐと注意されることもあり、子ども連れで行くのは迷惑ではないか、と躊躇してしまう人が多くいます。
※イメージイラスト
授乳やオムツ替えのための設備がないと出かけられないですし、それが整っていない施設が結構多いんです。昨今はジェンダーレスな視点が海外ではもとより、日本でも重要視されてきており、男女別に分けないバリアフリートイレがあれば、おむつ替えもお母さんだけじゃなくお父さんが手伝えます。また、女性用トイレにはお母さんがトイレに行っている間に座るベビーチェアがあっても男性用トイレにはないことが多く、お父さんが子どものお出かけや子育てに協力しようとしたときに、結構バリアがあります。
※イメージイラスト
今は、親子でどこに行って楽しく過ごせるか、どういう居場所をつくれるか、ということに取り組んでいるところですが、次の段階では、周りの気遣いという課題があって、子連れと子連れじゃない人がどう共存するかは、なかなか解決しづらいものがあります。家族以外の人が子どもに気軽に声をかけて見守るようなことも大事だと思います。
また、親子で出掛けて、親も子も両方が楽しめる施設がなかなかありません。遊園地やおもちゃ屋さんは子ども専用で大人は楽しめないし、文化施設は大人が楽しくても子どもはすぐに飽きてしまう。例えば、有料の展示にしても親子歓迎の時間があったり、託児があればもっと楽しめると思います。公共施設でも、もう少し親子連れが足を運びやすい環境づくりが必要かと思います」
時代のニーズが変わり、好みやライフスタイルが多様化し、他人とのコミュニケーションが減る中、錦織先生は、同じテーマを追う方々と連携、協力しながら親子に必要な居場所づくりに取り組んでいます。
取材協力/東北工業大学建築学部建築学科 准教授 錦織真也先生
※「乳幼児親子の外出行動からかんがえる施設のかたち」展は、東北工業大学錦織研究室と青葉の風テラス(国際センター駅上部施設管理運営事業共同企業体)の共催、協力は青葉山エリアマネジメント